ソッリマ 氷のチェロ物語

映画

はじめに

プランクトン(クラシック音楽のコンサートを企画している会社さん)から届いたメールに書かれた

「氷のチェロ」

という文字。

 

音楽好きな私としては、スルー出来ない言葉でした。

単なる氷の彫刻であれば、驚くこともないかもしれません。
(それでも十分芸術作品になると思いますが)

 

しかし、これが実際に演奏のできる楽器であるならばどうでしょう。

 

 

まずは強度の問題があります。

ヴァイオリンでもチェロでもギターでもそうですが、弦楽器には弦がピンと張ってあります。
強い力で引っ張られているので、それを支える楽器も相当な強度がないと壊れてしまいます。

 

割れやすいイメージのある氷でそんな強度が出せるのかということ。

 

 

そして、通常は木という温かみのある素材の代わりに、氷という無機質な素材で作られている。

これが音にどのような変化をもたらすのかという興味。

 

とにかく、音を聴いてみたいと思いました。

氷のチェロ

まずは氷のチェロがどんなものなのか調べてみようとYouTubeを探したところ、こんな動画を見つけました。

N-ICE CELLO Giovanni Sollima tour al MUSE – YouTube

 

分かったのは、楽器の共鳴部分は氷で作られており、強度が必要な指板(左手で押さえて音の高さを変える部分)は木材が使われているらしきこと。

そして、奏者のソッリマは球形の膜に覆われて、内部の温度が低く保たれているようであること。

 

音は木の楽器に比べて歪みの少ない印象を受けました。

 

動画を発見した時点で終わりでもよかったのですが、結局は『氷のチェロ物語』の上映会とソッリマの演奏会(氷のチェロではなく通常のチェロ)の通し券を注文することにしました。

 

理由は、氷のチェロの音色を、よい音響で、少しでも実物に近い音で聴いてみたいと思ったこと。

そして、このような先進的な取り組みに参加したソッリマというチェリストに大きな興味を抱いたためです。

氷のチェロ物語 映画

映画の原題は「N-ICE CHELLO」。
副題が「Tale of the ice cello」で、日本語タイトルの『氷のチェロ物語』はこちらを訳したものでしょう。

 

原題の方は「ナイス」と「アイス(氷)」をかけた洒落たものになっていますが、確かに日本語では表現しようがありませんね。

 

 

映画の内容は、雪山でのチェロの制作(雪を固めて)に始まり、それを運搬して色々な場所でコンサートを開催。

最終的に、チェロを自然に返すところまでが描かれて、感動的な内容でした。

 

劇中ずっとチェロの演奏が流れていたのですが、それがすべて氷のチェロによる演奏だったとすれば、言われない限り明確に普通のチェロとは違う音色だとは分からないなと思いました。

分かる人には分かるのかもしれません。

 

基本的にコンサートは、演奏者と楽器が冷たい空気で満たされた膜に覆われた状態で行われたのですが、1回、機械の故障によって膜が使えない回がありました。

そのときはスタッフが協力してドライアイスの煙でチェロを冷却しながらの演奏。

 

それでも楽器は溶けだして下には水たまりができていて、緊迫感のある演奏シーンとなっていました。

 

このシーンと、最後のシーンは強く印象に残っています。

ソッリマ チェロ演奏会

演奏会の感想

聴きに行った演奏会は「浜離宮朝日ホール」という朝日新聞東京本社内にあるホールで開催されました。

民間企業が運営するホールとしては、他にトッパンホール(凸版印刷)、Hakuju Hall(白寿生科学研究所)が有名です。

 

 

演奏会の最大の特徴は、無伴奏のチェロ独奏で行われたということです。

ピアノのように音を同時にたくさん鳴らせる楽器と違って、チェロは基本的には一度に一つの音を出す「旋律楽器」です。

 

旋律楽器のコンサートでは伴奏(多くの場合ピアノ)がつくのが当たり前なのですが、それがないことで、演奏者の個性がより引き立っていたと思います。

 

 

使われた楽器は氷のチェロではなく、木で作られた通常のチェロです。

そのため、『氷のチェロ物語』で聴いた氷の音色と木の音色の違いを感じることができるかなと踏んでいたのですが、そこはコンサート中あまり意識がいきませんでした。

 

それよりも、チェロのコンサートとして、それ以上にクラシック音楽のコンサートとして、これまでに体験したことのないようなエキサイティングな内容で、ただただ夢中で演奏を見させていただきました。

普通は弾かない位置に弓を当てたり、弓を使わずギターのように弦をかき鳴らしたり、さらには演奏しながら楽器を持ちあげて歩き出したりと、常識にとらわれない自由なスタイルの演奏が刺激的でした。

 

知らない曲ばかりだったので即興がどの程度入っていたのか分からないのですが、どこまでが楽譜に書かれている音で、どこからがその場で生み出された音なのかとか、余計なことを考える暇もなく、ただただその時間を楽しむことができました。

 

ちょうど行き帰りの電車でHIP(Historically inspired performance)という近年盛んに行われている演奏スタイルに関する本を読んでいたのですが、内容がちょっとリンクするなと思いました(HIPを突き詰めていくと、今日のような演奏スタイルに行きつくのかもしれないなと思いました)。

演奏会の動画

見に行ったのとは別の会場ですが、演奏会の動画がYouTubeで公開されました。
1つ目はまさかの演出、2つ目はホーミー(モンゴルの伝統的な歌唱法)のようなものを、3つ目は坂本龍一さんの曲が聴けてすべてお勧めです。
会場で感じた興奮が蘇ってきました。

まとめ

『氷のチェロ物語』というドキュメンタリー映画、そこにチェリストとして参加していたソッリマという奏者のリサイタルを通しで鑑賞してきました。

「氷のチェロ」とはどんなものなのかという興味がスタートでしたが、ソッリマの演奏は楽譜にも一般的な演奏会のスタイルにも囚われない自由なもので、今の時代のあるべき演奏スタイルだという感じがしました。

すごく、よい時間を過ごさせていただきました。

 

会場でCDを購入したので、ゆっくりと聴いてみたいと思います。
氷のチェロによる演奏も収録された、こちらのCDです↓

タイトルとURLをコピーしました